病気疾患について

胃がん

胃がんとは
 胃壁の内側の粘膜の細胞ががん化してできるがんです。日本では肺がん、大腸がんに次ぎ、死亡数の多いがんです。筋肉や粘膜でできている胃の壁の、最も内側にある粘膜の細胞が、何らかの原因でがん細胞となり増殖することで生じ、50代以上の男性が発症することが多い疾患です。胃がんの発症リスクとして、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染のほか、喫煙の習慣や塩分の過剰摂取、栄養バランスの偏った食生活、過度な飲酒などが指摘されています。胃がんは早期発見・治療すれば比較的予後が良いですが、胃がんの中には胃の壁の内側を硬く厚くさせながら広がっていくタイプがあり、これをスキルス胃がんといいます。早期の段階では、内視鏡検査で見つけることが難しいことから、見過ごされることもあり、症状があらわれて見つかったときには進行していることが多く、治りにくいがんです。

発生要因・原因
 胃がんは長期間にわたる胃の環境悪化や、過度な刺激によって発症します。発生要因としては、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染、喫煙があります。その他には食塩・高塩分食品の摂取、過度な飲酒習慣、野菜・果物不足、食事の乱れ、ストレス、過労など、発生する危険性を高めることが報告されています。
 中でもピロリ菌は胃の中で生きることができる悪玉菌で、除菌しなければ胃の中で生き続けます。このピロリ菌に感染すると慢性的に胃の粘膜が荒れた状態が続き、それが胃壁を形成する細胞のがん化を促し、がんを発症すると考えられています。ただし、ピロリ菌に感染した人が必ずしも胃がんになるわけではなく、たとえピロリ菌を保菌していなくても、塩分の取り過ぎや喫煙、ストレスなどほかの因子によって発症することがあります。

症状
 早い段階ではほとんど症状がなく、進行しても症状が出ないことがあります。早い段階から消化不良による、胃の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振、胃がんから出血することによって起こる貧血や黒い便(タール便)などの症状が現れることがあります。しかし、これらは胃炎や胃潰瘍でも同様の症状が起こります。胃がんが進行すると、食事がつかえる、食欲不振や嘔吐、体重減少、全身の倦怠感のほか、吐血やタール便、腹痛、貧血などの症状がおこります。

検査
 血液検査や胃のエックス線検査(バリウム検査)、胃内視鏡検査、超音波検査などを行い、病変の有無や位置、進行の程度を調べます。血液検査では腫瘍マーカーを、胃のエックス線検査では胃の形や粘膜の状態を確認。胃内視鏡検査でがんが疑われた場合は、病変の一部を採取して顕微鏡などで詳しく調べる病理検査を行って診断を確定します。また、がんの進行度合いを調べるために、超音波検査やCT検査などを行う。

治療
 がんの進行の程度や体の状態などから検討します。手術や内視鏡治療、薬物治療の中から、状態や進行の程度で適切に選択します。手術の種類としては、開腹手術と、腹部に小さな穴を数ヵ所開けて専用の器具やカメラを出し入れしながら行う腹腔鏡下手術があります。がんの進行度に応じて腹腔鏡下手術や開腹手術が選択され、同時に胃の周囲のリンパ節を切除します。胃を切除する範囲はがんの発生した部位により選択され、病変が大きい場合は胃の全部を、胃の中央部から出口に近い場合は胃の2/3を、胃の入り口に近い場合は胃の上部1/3を切除します。胃を切除したあとは残った胃と腸をつなぎ合わせて新しく食べ物の通り道をつくる消化管再建を行います。がんが粘膜内にとどまる場合は内視鏡を使って体の内側から病変を切除する方法が用いられます。一般的に化学療法だけで胃がんを治療することは難しく、手術前後の補助療法として抗がん剤や分子標的薬を使うことが多いです。

治療後
 治療後は再発に注意し、定期的に検査、診断を受けましょう。また食事を数回に分けてゆっくり食べ、刺激物をなるべく控えるなど、胃に負担をかけないように心がけてください。

予防
 胃がんの発生には食事が大きく関係していると考えられています。早期発見・治療ができれば治癒が見込めるので、定期的に検査を受け、状態をチェックすることも大切です。ピロリ菌感染が発症の原因となることが多いので、感染の有無を調べるための血液検査・呼気検査・便中抗原検査などを受けることが望ましいです。胃がんは早期に発見できますし、早期であればそれだけ簡単な治療で治りやすいです。

甲状腺がん

甲状腺がんとは
 甲状腺は喉のそばにある小さな臓器で、甲状腺ホルモンを分泌する働きをしています。
甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝や成長の促進などに関わるホルモンです。甲状腺にできる腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、中には大きくなったり、他の臓器に広がる悪性を示す腫瘍があり、これを甲状腺がんといいます。男性よりも女性に多く見られ、他のがんに比べて進行が遅く、治りやすいものが多いのが特徴です。
 甲状腺がんは大きく5種類に分けられています。
・乳頭がん
・濾胞がん
・低分化がん
・髄様がん
・未分化がん

発生要因
 はっきりとした原因はわかっていませんが、若い頃(特に小児期)の放射線被爆は原因のひとつと考えられます。髄様がんは、血縁者にかかった人がいると発生しやすくなると考えられています。

症状
 一般的に、しこり(結節)以外の自覚症状はほとんどないことが多いです。しかし、違和感、痛み、飲み込みにくい、声のかすれなどの症状が出てくることがあります。診察や検査をもとに詳しく調べます。

甲状腺がんの治療
 がんの進行の程度や体の状態などから検討しますが、治療は手術が基本となります。手術の場合、腫瘍の大きさ、個数、周囲への浸潤、転移の有無によって、甲状腺片葉切除術もしくは甲状腺全摘術を選択します。転移のない一側性の10mm以下の乳頭がんは所見によっては手術を行わず、慎重に経過観察することも可能です。甲状腺全摘後には甲状腺ホルモンの補充、副甲状腺の切除も同時におこなった場合は、活性型ビタミンD製剤、カルシウム剤の内服が必要となります。
 放射線治療では放射性ヨード内用療法を甲状腺全摘後のハイリスク症例、リンパ節転移や遠隔転移症例におこなうことがあります。
 薬物療法の発達により、分子標的薬の使用も病状によっては適応になっています。

甲状腺がんの手術後
 甲状腺腫瘍の大部分は良性です。悪性(がん)の場合でも、多くを占める高分化がんは、悪性度が低く根治が期待できます。一部は悪性になる可能性もあり、手術の可否、時期などはよく相談してください。

肺がん

肺がんとは
 気管や気管支、肺胞(肺の中を通る気管支の末端にある小さな袋状の組織)の細胞が何らかの原因でがん化したもの。進行すると、がん細胞は周囲の組織に浸潤しながら増殖していき、血液やリンパ液の流れにのって離れた臓器に転移することもあります。脳、骨、肝臓、副腎、リンパ節などに転移しやすく、肺がんの患者は増加傾向にあり、がんによる死亡者の数でも肺がんによるものが1位とされています。肺がんは主に2つに大別され、タイプ(病理検査の組織型)によって小細胞がんと非小細胞がん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなど)に分かれています。

原因
 小細胞がん、扁平上皮がんの発生にはタバコが関与しており、非喫煙者に比べると発症率が高くなっています。タバコには約60種類の発がん物質が含まれており、肺や気管支が繰り返し発がん物質にさらされることにより細胞に遺伝子変異が起こり、積み重なるとがんになります。加えて、受動喫煙についても影響の大きさが問題視されており、たとえ非喫煙者であっても、周囲の人がタバコを吸う環境にいる場合は注意が必要です。腺がんという組織型の肺がんは、タバコを吸わない人にも発生するが、進行が遅いタイプもあり小細胞肺がんや扁平上皮がんと比較すると根治できる人が多くなっています。年齢的には高齢者ほど罹患率が高く、男性のほうが女性よりかかりやすいという傾向があります。

症状
 がんのタイプによって異なりますが、肺がんは症状があまりありません。発生部位、進行度によって違い、咳、痰、倦怠感、息苦しさ、動悸、胸痛、体重減少などがあげられますが、これらの症状はいずれも肺がん以外の呼吸器の病気でもみられます。呼吸時に喉が鳴る喘鳴、息切れなど複数の症状がみられたり、長期間症状が治まらない場合は、医療機関を受診しましょう。

検査
 

大腸がん

大腸がんとは
 大腸の一番内側にある粘膜から発生する悪性の腫瘍で、できる場所によって大まかに「結腸がん」と「直腸がん」に分けられます。良性のポリープが大きくなる過程でがん化して発生するものと、粘膜の正常な細胞が直接がん細胞に変化して発生するものがあります。大腸といってもさまざまな部位があり、入り口から出口に向かって盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸S字部、上部直腸、下部直腸、肛門管で構成されています。そして結腸は盲腸からS状結腸まで、直腸は直腸S字部から肛門管までを指し、日本人の場合、大腸がんは特にS状結腸や直腸に発生することが多いといわれています。
 大腸がんは胃がん、肺がんに次いで3番目、女性では乳がんに次いで2番目に多いがんです。男女ともに発症率が高く、患者数は40歳代から増加傾向にあり、年齢が上がるにつれて罹患率は高くなります。

発生要因
 大腸がんは生活習慣、特に食生活との関わりが深いと考えられており、運動不足、野菜や果物の摂取不足、低繊維・高脂肪の食事、過度な飲酒、喫煙は発症のリスクを高めるといわれます。遺伝との関連性も指摘されており、家族に大腸がん、もしくは胃がんなどを患った人がいる場合は、リスクが増加するので注意が必要です。また、がん以外の疾患についても、家族性腺腫性ポリポーシスという、大腸に無数のポリープが発生する遺伝性の病気は、治療せず放置するとほぼ100%がんになるといわれています。なお大腸がんが発生する過程は、腺腫と呼ばれるポリープが悪性化するパターンと、最初から悪性腫瘍として発生するパターンの2通りがあると考えられています。

症状
 初期の段階では自覚症状はほとんどなく、検診や人間ドックなどの便潜血検査でみつかることが多いです。進行するにつれて、血便、下血、下痢や便秘を繰り返す、体重減少、継続的な血便や下血による貧血などさまざまな症状が現れます。がんが大きくなると、おなかにしこりを感じることもあります。また腸閉塞を引き起こすこともあり、便が出なくなったり、腹痛や嘔吐に苦しんだりといった症状も見られます。これらの症状は、大腸の出口、つまり自分から見て左側に腫瘍があると早期から出始めることが多く、比較的気づきやすいです。一方、大腸の入り口右側付近や中心辺りにある場合は腸管の中が広くかつ内容物が液状のため症状が出にくく、出ても軽い腹痛や腹部の違和感などにとどまり、腫瘍が大きくなってから発見されることも少なくないです。

検査
 便潜血検査で便に血液が混じっていないかどうかを調べ、陽性であれば大腸内視鏡検査を行います。がんであった場合にはCT検査、MRI検査などによって腫瘍や大腸の状態を詳しく観察します。内視鏡検査では腫瘍の形や大きさ、色、広がり具合などを映像で確認でき、注腸造影検査はがんの正確な位置や深さを調べるのに役立ちます。そのほか、採血での腫瘍マーカー(がんによって増える血液中の物質)検査、腫瘍の一部を顕微鏡で観察する病理検査、放射性の薬剤を使ってがんの全身への転移を確かめるPET検査などを症例に応じて行い、転移の有無や進行度合いも含めて診断を確定します。
 陰性の場合でも、時間の検診までに気になる症状が出た場合は医療機関を受診してください。

治療
 がんの進行具合や患者の年齢、全身状態などを考慮しながら、適切な方法を選択します。比較的早期で転移の可能性が低い場合は、内視鏡を使って腫瘍を切除することが多いです(ポリペクトミー)。具体的には、ポリープの基部をスネアという金属製の輪を腫瘍にかけて電流を流す方法や、病変の基部および周囲に薬液を注入し粘膜を持ち上げて腫瘍を剥がし取る方法があります。
 一方、進行してがんの根が深くなり、病変の場所・程度によって内視鏡での手術は難しく、開腹手術か腹腔鏡手術となります。病変の場所や転移の状態によって細かな方法は多少異なりますが、基本的には腫瘍のある部分の腸管とリンパ節を取り、可能であれば他の臓器や組織の切除も検討します。腸管を切除したときは、残っている腸管とつなぎ合わせます。難しい場合は人工肛門をつくりますがその頻度は減少しています。また状態により、放射線治療や抗がん剤治療を併せて行います。

予防
 栄養バランスの取れた食生活、適正体重の維持、適度な運動、禁煙、節度のある飲酒を心がけることで、大腸がんの発症リスクを下げることができるといわれています。また、大腸がんは早期に発見できれば高い確率での治癒が期待でき、治療後の5年生存率も高いです。そのため、定期的に大腸がん検診(大腸内視鏡検査・便潜血検査)を受け、小さな異常をできるだけ早く見つけることが大切。40歳以上の方は発症率が高まるため、年に1度、大腸がん検診が望ましい。

乳がん

乳がんとは
 乳がんは乳汁を分泌する組織である乳腺の先にできるがん。乳頭を中心に母乳の通り道である乳管が放射状に広がっていて、その末端に母乳を作る小葉と呼ばれる組織があります。多くはこの乳管から発生する乳管がん、一部は乳腺小葉から発生する小葉がんです。乳がんは、日本人女性のがんの中で最も多いがんですが、早期に発見することができれば、比較的治りやすいです。他のがんと比べて患者の年齢層が若いのも特徴の一つで、患者数は増加傾向にあり、罹患率は40代後半にピークを迎えます。男性にも発生することがあり、男性も多くは女性と同様に乳管からがんが発生します。
乳がんは乳房の周りのリンパ節や、遠くの臓器(骨、肺など)に転移することがあります。

発生要因
 乳がんの発生には、エストロゲンという女性ホルモンが深く関わっていることが知られています。体内のエストロゲンが多いことや、エストロゲンを含む経口避妊薬の使用、閉経後の長期のホルモン補充療法は、乳がんを発生するリスクを高めることがわかっています。
また、初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産経験がない、初産年齢が高い、授乳経験がない、閉経後の肥満、飲酒の習慣がある、良性乳腺疾患の既往歴がある、異型乳管過形成をはじめとする異型を伴う上皮内病変にかかったことがあることなども、乳がんの発生と関連があります。
 そのほかに、第一親等(自分の親または子)で乳がんになった血縁者がいることも乳がんの発生要因になります。原因としては、BRCA1、BRCA2という遺伝子の変異が知られていますが、これらの変異があるからといって必ずしも発症するとは限りません。遺伝医学などの専門家のいる施設で、遺伝カウンセリングや遺伝学的検査を行うことが勧められます。

症状
 初期の場合、痛みはほとんどなく主な症状は、乳房のしこりです。ほかには、乳房にえくぼやただれができる、左右の乳房の形が非対照になる、乳頭から分泌物が出る、などがあります。
乳がんは自分で見つけることのできるがんの1つです。日頃から入浴や着替えのときなどに、自分の乳房を見たり触ったりして、セルフチェックを心がけましょう。ただし、セルフチェックでは見つけられないこともあるため、定期的に乳がん検診を受けることも重要です。
 乳房のしこりは、乳腺症など、乳がん以外の原因によっても発生することがあります。気になる症状がある場合は早めに乳腺専門医を受診し、早期発見につなげましょう。

乳がんの治療
 乳がんの治療には、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法(内分泌療法、化学療法(抗がん剤治療)、分子標的治療など)があり、それぞれの治療を単独で行う場合と、複数の治療を組み合わせる場合があります。
 手術治療には乳房の一部を取り除き、残存乳房に放射線治療をおこなう乳房温存療法や乳房全摘手術がある。その適応は病期や腫瘤の性質、患者の希望を含めて総合的な観点から判断する。また最近は乳房切除後の乳房再建も積極的におこなわれます。腋窩リンパ節についてはセンチネルリンパ節生検が行なわれ、病理診断で転移がなければの全切除(郭清)はされず、上肢のリンパ浮腫発生が抑えられます。
 がんの性質や進行病期、身体の健康状態、年齢、合併する他の病気の有無などに加え、患者さんの希望を考慮しながら治療法を決めていきます。

乳がんの予防と検診
予防・・・
がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、適度な運動など、生活習慣を整えることが効果的といわれています。中でも乳がんを予防するためには、飲酒を控え、閉経後の肥満を避けるために体重を管理し、適度な運動を行うことが良いと考えられています。

検診・・・
40歳以上の女性は1年に1回、乳がん検診を受けましょう。ほとんどの市町村 では、検診費用の多くを公費で負担しており、一部の自己負担で検診を受けることができます。
検診の内容は、マンモグラフィ(乳房X線検査)と問診※です。問診では、自覚症状、月経や妊娠などに関する事項、既往歴、家族の病歴、過去の検診の受診状況などを確認します。検査の結果が「要精密検査(がんの疑いあり)」となった場合は、必ず精密検査を受けましょう。※超音波検査や視触診検査を行うこともあります。
また、早期発見には、毎月決まった日に、乳房のしこりやへこみの有無、皮膚の色の変化を確認する習慣を身につけるのが理想です。